今月のことば
「間」を大切に
千 宗室
淡交タイムス 4月号 巻頭言より
新年度が始まり、さまざまな場面で新しい出会いのある季節です。
私はずいぶん前から、誰かにお会いして挨拶をする際、初対面でなくとも必ず初めに「千です」と名乗ることにしています。例えば、何かの会合で年に数回しか顔を合わせないような間柄ですと、久々に再会した相手の名前を思い出せないということがあるかもしれません。仮にそういう場合でも、自分から先に名乗ることで次の会話へスムーズに入っていくことができます。
このようなことをしている人はきっといないだろうと思っていたところ、あるとき、私と同じやり方で挨拶をされる方に出会いました。もとよりその方は素晴らしいお人柄で、心から尊敬する人生の大先輩です。残念ながら昨年亡くなられましたが、初めてお会いしたときから、その後もいつも変わらず、真っ先に名乗っておられました。その挨拶の仕方、即ち「間」の取り方に対して、ことさら私はシンパシーを感じておりました。
「人」は、その字が示すとおり、二本の棒が寄り添い、支え合ってできています。どちらか一本が外れたら、もう一本も倒れてしまいます。そして「人間」とは、人と人が支え合っているときに必要な「間」のことを指します。
「間」とは、ゆとりです。点前でいうなら、席中へ入る前に水屋で帛紗を腰に付け、深呼吸をするとき、その「間」があってこそ自分の中にゆとりが生まれます。そもそも自分にゆとりがなければ、人様にゆとりを感じていただくこともできません。茶の湯においては、気忙しい世の中に流されることなく、その「間」の部分を大切にしていかなくてはならないと私は常々思っております。