今月のことば
道筋を守る
千 宗室
淡交タイムス 1月号 巻頭言より
謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
さて、戦後の日本では復興や地域おこしの名のもと、
古くからある大切なものを上手に残すというのは特定のものをピンポイントで残すということではありません。例えば熊野本宮大社へ続く古道は「舗装をするのもほどほどに」という要望が神社からだけでなく道筋の村や町からも出されていると伺いました。地域の方々は先人たちが大切に守ってきたものを次の世代に渡していく責任をしっかりと感じておられるということでしょう。
今ここにあるものや歴史を感じさせるようなものを残すことが大人の務めだと私は長く思い続けてまいりました。茶の湯においてはとかく京都のものに目を向けがちですが、手の届く範囲でその土地なりのお茶を楽しむことが文化を育み、そのまちの大切なものを伝えていくことになると私は考えます。
今日という日がたくさんの過去に支えられているように、かつてこの場所にいた大勢の人たちが大切に守ってきてくれたおかげで私たちが今ここにいます。未来の人のために何かしてあげようと考えるなら、自分たちが今を支配しているような感覚に陥ってしまいます。そうではなく、未来に生きる人たちが過ごす場所を「お預かりしている」という気持ちが私たちには必要ではないかと存じます。