今月のことば
思いも寄らぬこと
思いも寄らぬこと
淡交タイムス10月号 巻頭言より
このたびの鵬雲斎宗匠の急逝に際し、生前、多くの皆さまにご縁をいただきましたことを父に成り代わり心から感謝申し上げます。
本当にあっという間の出来事でした。亡くなる三十分くらい前に看護師と言葉を交わした後、突然息が弱くなり、そのまま眠るように息を引き取りました。
遺言というわけではありませんが、父は八十歳くらいから、「点滴やらいろいろつながれて、意識がないのに長く生かされるのは絶対に嫌だ」と常々申しておりました。せっかちな人でしたので先へ先へと早く逝ってしまいましたが、望んでいたように人生の幕を引き、本人も満足していると思います。
八月十三日の朝も私と盆中の打ち合わせをし、病室を出るとき、いつものように「また明日」と言葉を交わし、お互いに合掌をしました。それが父と子の最後のやりとりになりました。「ことば」の中にある「誰に会っても合掌する心を忘れぬように」という、まさにその合掌で私たちは別れたことになります。
「人とのご縁が一番の宝」「お人を大切に」という教えは淡々斎宗匠から鵬雲斎宗匠へ受け継がれ、私にも伝わってまいりました。これから先も丹心斎若宗匠へ、そしてその次へとつながっていくはずです。いただいたご縁に感謝をし、これからもこの道をしっかり歩んでまいる所存です。皆さま方には同じ想いを持ってご自身の研鑽を続けていただきたいと願っております。