今月のことば

扱いを知る

千 宗室

淡交タイムス(裏千家グラフ) 12月号 巻頭言より

 宗家では今年も春と秋、四ヶ伝に特化した三日間の研修会を行いました。これらは、冬と夏の講習会の中で希望の多い課目を取り出して集中的に学ぶという形で五十年近く続いてまいりました。
 四ヶ伝では唐物を扱うことが多くなります。わび茶の千家の茶道においては特殊な扱いのものです。ご承知のように、利休居士は台子や唐物道具を拒絶されたわけではありませんが、それらを脇に除けておいて、誰もが手の届くような、この国で生まれた道具類を使って今日まで伝わるわび茶の基礎を築かれました。
 そういう意味から言えば、基本から小習までをしっかり学んだ後に伝物へ進むと、唐物を扱う機会が増えるわけですから戸惑うのは当然です。いろいろな扱いをどの段階でどう整理すればいいのか分からなくなることもあるでしょう。ですから、新たに学ぶ点前をいっぺんに覚えようなどと焦る必要はありません。その時点で「自分に分からないことがあった」と認識できれば、それでいいわけです。
 かくいう私も若い頃は献茶式やお茶湯の儀に際し、ともかく手順を覚えようと躍起になり、実際に何度も繰り返して点前をさせていただくうちに自分の中に根付いてまいりました。そうして「ここまでだな」と思った時期もありました。しかし、還暦を過ぎた頃から、今度は一つ一つの扱いが花開き始めました。というのも、ある扱いが同じ点前の中で別のところに関連していると気付いたり、また一見関係のなさそうな他の点前で応用できたりという具合に、長い時間をかけていくうちにいろいろな扱いが繫がっていきました。
 もちろん、点前を覚えようという気持ちは大切ですが、忘れたからといって悲観することはありません。昔、学校で習ったことが、あるときふと蘇るということもあるでしょう。経験しなかったこと、見ようとも聞こうともしなかったことは思い出せるはずがありません。実際に経験したことは忘れても思い出せます。少なくとも思い出すチャンスがあります。体が覚えてくれるとはそういうことだと思います。

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