今月のことば

構えと居前

千 宗室

淡交タイムス 7月号 巻頭言より

 茶の湯においては炉から風炉へ、そして風炉から炉への入れ替えが毎年あります。点前をする際の目線も変わってきますので、入れ替えのたびに一から勉強し直さなければという気になるものです。
 幸いなことに私は献茶式をご奉仕させていただいており、一年を通じて風炉の点前をする機会があります。そうは言っても献茶と茶室の点前では状況が違いますから、やはり入れ替えの節目には自分の構えを正すということが欠かせません。
 今年も初風炉を迎える前の晩に私は自屋で空点前をいたしました。悲しいかな年をとってだんだんと記憶力が悪くなり、覚えたつもりで忘れてしまっていることもありますが、空点前の一番の目的は「構え」と「居前」です。大海茶入や象牙の茶杓など具体的な道具を想定し、その重みや感触までイメージしながら構えや動きを再現するのは案外難しいものです。時には実際の点前での自分のいい加減さに気付かされることもあります。
 例えば野球では投手はシャドーピッチングをし、打者は繰り返し素振りをします。相撲取りならすり足やテッポウをします。こうした基本の訓練では相手がいないからこそ正しい構えを意識し、狂いがあればそれに気付くことができるのではないかと思います。空点前の場合も目の前に何もないからこそ自分の位置の決定がことさら重要になり、正しい構えを身に付けるのに役立つと思っております。
 稽古場にいるときだけが稽古ではありません。どこにいても茶の湯の稽古はできるものです。皆さん方も折に触れて空点前やイメージトレーニングをされてみてはいかがでしょうか。構えと居前を深く知るための良い機会になることと存じます。
 

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