今月のことば

風炉と炉

千 宗室

淡交タイムス 10月号 巻頭言より

 茶の湯といえば、炉も風炉も侘び茶で同じと受け取っている方もおられるかもしれません。しかし本をただせば、南浦紹明が大陸から持ち帰ったとされる台子、風炉皆具一式が原型であり、そこから現在にまで続く茶の湯への最初の一歩が踏み出されたわけです。それ故、今でも台子の点前すなわち古式の点前は風炉が本来であると認識されています。ところ私たちは、禅院から書院へ入ったという風炉のルーツについて意外と素通りしてしまっているところがあります。

 利休居士は「古式が風炉である」という流れの中で、風炉の点前を成すと同時に、田舎家の囲炉裏に着想して炉を取り入れられました。今でも白川郷などに合掌造りの民家がたくさん残っています。すべきことが限られる冬の時季は、炉辺に家族や身内の人たちが集まり、食べて語り、そこで寝るということを繰り返し、季節を凌いでいく。穏やかな場でなければ人は集えません。当然、見栄やてらいなど要らないものは削ぎ落とされていることでしょう。

 侘び茶を進めていく上で、利休居士は「要らぬものを持たぬ」ということから炉を点前の中に取り入れていきました。そのようにして古式としての風炉、侘び茶としての炉という基本的なものが定まり、その後、この捉え方からさまざまな趣向が生まれてまいったわけです。

 暑く長い夏がようやく過ぎ、風炉の名残りの季節を迎えました。皆さん方には、その起源に思いを馳せながら点前に臨んでいただきたいと存じます。

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