今月のことば

情けのある茶

千 宗室

淡交タイムス 2月号 巻頭言より

 今年の初釜式は開催するかどうか迷いました。ご承知のように元日に能登半島で大きな地震がありました。仙叟宗室居士以来、北陸は私どもと長いご縁のある土地でもあります。その土地で多くの方が被災されたわけで、そのことを思えば初釜どころではないというのが本当のところです。
 しかし、中止してしまえば何もありません。それならば参席される皆様と一緒に募金活動をさせていただくようにすれば、初釜を開くことで少しでも被災地に善意をお届けすることができるのではと判断いたし開催した次第です。
 加えて、今年は勅題に「和」という言葉をいただいております。利休居士が示された「和敬清寂」の最初の一文字です。実に親しみやすい言葉ではありますが、「和む」ということの真意を考えれば、果たして私たちは充分にそれができているかどうか甚だ疑問を感じることがあります。
 世の中に和みの場をつくっていくのが茶の湯の本意です。その和みの場をつくるために、「そっちからやってきなさい」という態度になってしまえば何も始まりません。まず自分が心を柔らかくして一歩進むことで相手もこちらに歩み寄り、そうして初めて場は和むものではないでしょうか。以前のタイムスに認めた「情けのある一碗」を今こそ一人ずつが心がける時です。
 そのような気持ちで今年も宗家と同門の皆さん方が一体感を持ち、能登の地の一日も早い復興を願いつつ、茶の湯の道を歩んでいけることを切に願っております。

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