今月のことば

稽古照今

千 宗室

淡交タイムス 3月号 巻頭言より

 今年の初釜式ならびに初茶会では昨年に続いて立礼式で点茶盤を使い、各服点で濃茶をお出ししました。ご案内の人数をまだ制限している中で参席される賀客方には高齢の方が多いせいか、とりわけ立礼は好意的に受け入れられ、今後もこの形を続けてほしいという声も寄せられていたようです。
 三年続いたコロナ禍によって世の中は様変わりし、人々の暮らしや意識に大きな変化をもたらしました。茶の湯の世界においても以前と違う対応が求められるようになり、昔と同じようにできなくなったこともあります。しかしだからといって、すべて元通りにしようと無理をする必要もないと私は思っています。「元の姿をベースにこういう具合にふくらませていこう」という発想が当然あってよいわけです。
 もちろん、伝統文化を受け継いでいくにあたって守らなければならないことや簡単に変えられないことがあります。しかし一方で、それらにがんじがらめにされることなく時代や状況に合ったやり方を考えるのも、やはり大切なことだと思います。
 四代仙叟宗室は元伯宗旦の末っ子でした。晩年の宗旦と長く生活を共にする中で、基本を学んだ上でのさまざまな働き・・の点前や扱い・・が当たり前のようになされ、その精神は代々引き継がれてまいりました。点茶盤の立礼式、各服点は最たる例です。
 そのような流れの中で私たちには自由さが与えられています。それは同時にご先祖に試されている部分でもあるわけです。しっかりと時代に応じたことをするというテーマを投げかけられているような気がいたします。今の時代に適う茶の湯の姿をこれからも皆さんと共に求めてまいりたいと存じます。

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