今月のことば

体の幹と心の幹

千 宗室

淡交タイムス 10月号 巻頭言より

 

 稽古する際、正しい構えができているかどうかを意識することが大切です。一例として茶碗と棗を持ち出るとき、帛紗を捌くときなど、良い姿勢を保つことで亭主は自分の点前をその場に合わせることができます。点前座にいるときだけではなく客としての姿勢も同じことです。構えを崩さず体のバランスをとるためには、いわゆる体幹が重要になります。
 一昨年から習い始めた清元の稽古で、師匠は私のことを唯一「姿勢がいいね」と褒めてくださいます。私は茶家に生まれたという理由だけで姿勢が良くなったわけではありません。小学生の頃、亡くなった弟と一緒に月二回、金剛流のお仕舞を習わされていました。そのおかげもあって殊更に姿勢や構えが整ったのだと最近になって気が付きました。
 姿勢を正そうとするときに「胸を張る」という表現がありますが、そう言われた人は顎が出てしまいがちです。ですから私は「肩甲骨を寄せる」という言い方をしています。清元の師匠にたまたま褒められたのも、肩甲骨を意識しているときでした。
 体の幹に加えて心の幹、即ち❝いつもの自分の姿でその場をつとめる❞ということも大事です。自分が素直に取り組んだことの先に結果として評価はついてくるものです。良い評価を得ようとばかり考えていると、ただ評価を得るための点前になってしまいます。そうなるとお客さまは置き去りです。「叶うはよし 叶いたがるは悪しし」。利休居士は尊い教えを遺してくださいました。
 皆さん方には体と心の幹を意識しながら日頃の稽古に臨んでいただきたいと存じます。

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