今月のことば

学びの心得

千 宗室

淡交タイムス 4月号 巻頭言より

 新年度を迎え、皆さん方にはそれぞれに気持ちを新たにされていることと存じます。
 さて、現代は情報通信がますます発達し、インターネットや携帯電話が生活に欠かせないものになっています。私もずいぶん前からスマートフォンを使っています。いわゆるガラケーから切り替えたとき、いちばん困ったのは説明書が付いていないことでした。説明といえば「ホームページにアクセスしてみてください」という無愛想な対応で、子どもたちや若い人に使い方を尋ねても、「触っているうちに分かりますよ」と言われ、腹の中では釈然としない気持ちでおりました。
 しかし、今になって実はそれが大変良い教えだったということに気が付きました。
慣れるためということの原点につながっていると思いました。そもそも書かれたものを睨みながらいちいち操作を覚えることと、真剣に触って早く扱いに慣れること、果たしてどちらが大切でしょうか。スマートフォンという最先端のものが意外と古くさい教え、即ち学ぶための心得を示してくれていたことを有り難く思っています。
 茶の湯の稽古でも教則本を脇に置いていくら点前をしても、そう簡単に身に付くものではありません。書かれたものから学び、忘れたときにはそれがあるから安心だと思うのではなく、そのとき自分が出会っている場面をしっかりと見ること、体現することによっていろいろなことが自然と身体に染み付いていくものです。
 皆さん方には、見る・聴く・感じることを疎かにせず、日頃の稽古に臨んでいただきたいと存じます。

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