今月のことば

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千 宗室

淡交タイムス 2月号 巻頭言より

 点前をするというのは、手順を覚えることが第一です。手順を徹底的に覚え、自分の体がその手に一緒についていくようになっていく、その繰り返しの動作を学ぶことが欠かせません。よく「心技一体」と言われるように、心と体が一緒になって初めて点前座に座る資格を与えられると私は思ってきました。そして実際そのように繰り返し稽古を重ね、この歳になってもそれなりの点前ができるのはやはり若い頃の貯金のお蔭だと感謝しています。

 しかしながら、歳を重ねると駄目になってくるところもあります。最近は点前をする時、目に若干の違和感を覚えるようになりました。以前であれば目を瞑っていてもどこに何があるのか分かると思っていましたが、それが慢心だったと感じるくらいに道具に手を伸ばした際、時折妙な触り方をするようになってきました。これはまずいと思い眼医者に相談する中でふと、若い頃に道具と自分の距離感や体で点前をするための稽古を一所懸命にやってきたことの貯金があることに安心して薄ぼんやりと点前をしていたのではないか、反省しないといけないことだと気が付きました。

 このような時は元に戻れということで、最近はまた心と体が一つになって点前できるようにということを心掛けて点前座に座る訓練をしています。人は慣れた、もう安心だと思うと必ず躓きます。目が悪くなったのはつらいことではありますが、目がそのことに気付かせてくれました。皆さまもいつも基本に戻るということを忘れず、日頃の稽古に励んでいただきたいと存じます。

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