今月のことば

雪間の草

千 宗室

淡交タイムス 3月号 巻頭言より

 

 厳しい寒さも日ごとに緩み、釣釜の揺れに春風を感じる頃となりました。
 さて、五月の大型連休明けから新型コロナウイルスを感染症法上の「5類」へ引き下げるという方針が国から示されています。とはいえ、その日を境に私たちの生活や行動を急に変えていいということではありません。「こうしなさいと決められる」というふうに受け取るべきものではないということです。
 濃茶についても、まだまだ飲み回しは避けるべきと思います。というのも、現代はあらゆる情報が瞬時に行き交うネット社会です。仮に私が飲み回しをしたとなれば一気にそのことが広まります。そうなれば皆さん方と共に工夫してきたコロナへの姿勢や対応があっという間に白紙に戻されてしまう恐れがあるからです。
 幸い私たちには、圓能斎宗匠が定めてくださった「各服点」があります。特殊な扱いではあるものの、きちんと名称のついた点前作法です。一時期忘れられたようなことになっていましたが、春の日差しが当たって顔を覗かせた雪間の草のように広がっています。そのことに感謝をしなくてはならないと改めて思う次第です。
 「分類」は通常の生活における一つの目安とし、こと茶の湯においてはこれからも安全を第一に考え、誰もが笑顔になれるような場をつくっていただきたいと願っております。

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