今月のことば

足し算引き算

千 宗室

淡交タイムス 2月号 巻頭言より

 今年の初釜式も、情況を見極めながら昨年同様各服点立礼式で執り行わせていただきました。ご案内人数は限られているとはいえ、ともかく同門社中代表の皆さまと新年を迎えることができ有り難く存じております。
 さて、祝い釜などの場合、めでたいものばかり華々しく取り合わせ、少しやかましくなってしまうことがあります。しかしながら本来の茶の一会とは、主役道具を上手に盛り立てるように取り合わせるものと存じます。そのような道具組でゆったりと時を過ごせたなら、余韻が長く続く一会となるでしょう。
 昔から、催しものの世界では「二八は鬼門」と呼ばれてきました。この時季は客が入らないという意味です。確かに二月は寒さが極まり、同時に春を生み出すことに集約されたひと月ともいえます。寒いというだけで何もない。しかし、それはある意味潔く、何もないからこそ何かを足していけるということです。裏を返せば、たくさんあるところには何も足せません。何かを足しても過剰になるだけです。
 思えば私たちは、「足し算だらけでつくられた世の中」に長居しすぎたような気がいたします。ひょっとすると新型コロナウイルスは、私たちに引き算を考える一つのきっかけを与えてくれたのかもしれません。本当に必要なものは何なのか。極寒のときこそ、いろいろなことに思いを巡らしてみるのもよいでしょう。

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