今月のことば

空を眺めて

千 宗室

淡交タイムス8月号 巻頭言より

 先日、小川通界隈の古い写真を見る機会がありました。懐かしい風景に目を細めたり、意外な景色に驚かされたり。どれも共通しているのは、「小川」という水路があること。そばには染物の工房がぽつぽつとあり、かつて水車が回っていたという話も聞いています。時代と共に街並みがどんどん変わっていく中で、小川に水が流れていたことを知る人も少なくなってしまいました。
 川や水路の流れは季節の移り変わりを教えてくれます。例えば、水の量が減り、しばらく天気が崩れていないなら、「ちょっと用心しておこうか」ということになる。昔はそういうところから生活のめりはり・・・・が生まれました。今、街中を流れる水は、無理やり流れが作られていたり、伏せられたりして管理されています。そこに流れる水を見て、どういう具合に天気が移り変わるか予想できません。
 近頃は気象情報をスマートフォンで調べるのが当たり前になりました。それでも私は子どもの頃からの習慣で、今でもよく風の向きを肌で感じ、雲の色合いや動きを見て天気を予測します。皆さんがお住まいの地域でも、風がそれぞれのやり方でいろいろなことを教えてくれると思います。
 昔からの自然との付き合い方を学び直そうと言っているわけではありません。今はもっと違う方法や判断の基準もあるでしょう。しかし、茶の湯に関わる皆さんは、風や雲、光や湿気を敏感に感じながら、その時の一会に接する心を養っていく必要があると私は思います。
 忙しい日々の中で足元ばかり見て歩きがちです。時には立ち止まって空を眺め、髪をなでる風の向きに意識を向けてみてください。そんなことをしながら、誰もが持っているはずなのに脇へ置いてしまった「感性」を取り戻しましょう。そうすれば、茶の湯の楽しみの幅が広がっていくはずです。

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