レッスン風景

ロイヤルパークホテル教室(金曜日)


レッスン風景5

 まだまだ残暑の残る8月、総飾りの稽古など、通常の薄茶の点前から1つ進んだ所作を学ぶようになり、いよいよこの教室も終了が近づいてきました。まだまだ学び足りないという知的好奇心と、先生や顔見知りになり仲良くなった受講者の皆さんと学んでいくのもあとわずかという寂しさを感じながら、残り少なくなった教室の時間を充実した時間として過ごしていけたらと思っています。

 さて、今回は国際交流と茶道について。いつものように教室に伺ったところ、床には「耳なし芳一」の一説が英語で書かれた扇子がかけられていました。

 日本の伝統文化「Japanese Tea Ceremony」は国際的にも人気があり、海外の人たちが世界各国から来日した際に、茶道を経験したいと希望されるのだそうです。特に柔道や剣道など日本武道に携わっている方が多いのだとか。夏の怪談という日本の風情を茶道と共に感じてもらうのに良い扇子だと思います。
 今や茶道は日本文化を象徴する1つとして知られていますが、お茶自体は平安時代に中国から伝来したもので、それを哲学的・審美的に思想を深めて茶の湯文化を大成したのが、千利休だと言われているそうです。
 外国の文化を柔軟に吸収、アレンジして独自の文化にしてしまう日本人らしく、今も現在進行形で変化しているのだと感じることが出来ました。

 茶道には季節の変化を敏感に感じながら、その風情を楽しむという要素があるように思います。それと共に、時代の流れや人々の関わり合いに応じて茶道そのものがどう変容を遂げていくのか、過去そして未来への展望も愉しむことができる。この「時代を併せ飲む」というのも、茶道を嗜む面白さの1つなのかもしれないと感じます。


レッスン風景4

 外に一歩出るだけでも汗が止まらなくなる酷暑、7月。感染症対策として、窓を開けて換気に最大限の注意を払っての教室となりました。日程も後半に差し掛かり、最初は一挙手一投足覚えるのに苦労していた作法も少しずつ体にしみ込み始め、ぎこちなさが少しずつ取れてきた中、今月の稽古は棚を使ったお点前です。

 お道具を棚に「荘る」所作を学びました。棚の形や段の数によっても違いがあり、そのパターンは棚ごとに無限に変わっていくとのこと。もう覚えられない!と思いましたが、すべてのコンセプトは陰陽五行に則っているとのこと。これを理解するのもまた大変ですが、「すべての作法には理由がある。」その作法の背景を辿りながら、お点前が作り上げる世界観を理解することが、茶道を味わっていく醍醐味の一つなのではと思います。

 立ち居振る舞い方、お道具やお花、茶室の準備の仕方、お茶とお菓子の選び方、それぞれの基本となる型を体に染みつけた後、今後課題になってくるのが、その型を利用した「自分なりの表現」であるとの事。今は教室で使わせてもらっているお道具を今度は自分なりの美的感覚で選定していく、そしてそれを利用して表現したい自分なりの世界観に則り、今覚えている基本の所作の型に加えて、細かいところで自分なりの所作の癖が出てくる。これ見よがしの表現ではなく、お客の嗜好や季節、陰陽に合わせて、そこに「自分なり」を当てはめていく。それが総合芸術である茶道なのだと理解するようになりました。

 お茶を飲むという事をシンプルに考えると、現代ではコンビニで電子マネー決済をして、ごくごく飲むというのが一番効率のよい方法かもしれません。その単純作業に、歴史、思想、個性、美学を全部詰め込んで、一大伝統芸能にしてしまう日本人って面白い。と思いながら、はた目には面倒なあれこれを楽しんで学んでいければと思います。不便で窮屈に見える場所で感じる解放感と得も言われぬ感動、夏の野外音楽フェスに似ているとも思った7月でした。


レッスン風景3

 初夏の候、雨に打たれることも多くなった6月、全6ヶ月の稽古も今月で早くも折り返しになりました。数多くの決まり事に悪戦苦闘しながらも、薄茶の点前における一連の動作をある程度こなせるようになってきたこの段階で、今までとは全く違う毛色の課題が現れました。それは、「茶杓の銘」です。

 薄茶の点前の最後、お客様が今回の茶会で使用した棗や茶杓を拝見します。そして亭主が茶杓の銘を答えるという場面です。亭主の想いが表されるという、そこに独特の難しさを感じました。

 例えて言えば茶杓の銘は、茶会というエンターテインメントの監督主演兼プロデューサーである亭主が最後に明かす茶会のタイトルのようなもの。お客様は茶室に入り、掛け軸、茶花を観賞し、お香を聞き、茶道具を鑑賞しながら亭主がふるまうお菓子とお茶を頂きます。亭主は最後に茶杓の銘を問われ、各道具などでちりばめられた伏線を全て回収するかのような、今回の茶会という一つの物語を表す銘を答える!・・・という振る舞いができると、きっとさぞかしカッコイイのでしょう。

 今はまだ1つ1つの所作を体に慣らしている段階です。茶杓の銘もインターネットで調べながら「そういえば季節を表す言葉ってこんなものがあったなぁ」と思うような、四季を感じるにも程遠い、コロナ下の東京にいるわけですが、所作が体にしみ込んだその先には、季節を感じ取り、お客様の状況を感じ取り、亭主からのおもてなしとして表現することができるのかなと学んだ6月の稽古でした。


レッスン風景2

 5月になり桜が目に鮮やかな新緑に変わる季節、講座の内容はステップアップ。亭主と客に分かれて一連の薄茶点前の流れを学ぶことになりました。これまで個別に行っていた帛紗捌きや茶巾の畳み方、棗や茶杓の清め方、部屋の入り方などの割稽古は、全てこのためにあったのかと、点と点が線になる感覚。いよいよ「自分が茶道の点前をやっている!」という実感が生まれ、高揚感が出てきました。

 その一方で、覚えなければいけない作法の多さ。これが、だんだん顔見知りになってきた受講者全員の悩みの種となってきます。茶碗や道具の置き場所、清める順番、お湯の入れ方までの一挙手一投足、お茶を提供するというたった20分前後のやり取りにいくつものルールが詰め込まれています。

 しかしここでも感じるのが、この点前作法が人として自然で合理的な動作に基づいているということ。1つ1つの動きを指示いただく中で、この動作はなぜ必要なのか、何をどの角度で聞いても理由が存在しており、それがほとんど「なるほど」と思えるもの。茶道が不朽である理由の1つに、「完成された立ち振る舞い」があるということが良く分かります。

 また、先生がご用意されているお軸、お花、香合なども毎週違うものがしつらえてあります。それを選ぶための歴史や文化への深い造詣、庭のお花も全ての季節で提供できるように維持していくことなど、お茶を提供するという一見単純な動作にどれほどの準備が必要なのか。「茶道を初めて50年を超えるが、いまだに学ぶことがある」という先生の言葉も、実際に亭主としての点前を体験して、初めて体感的に理解できるところです。

 しかし、この修練の行きつく悩ましい深みを感じる一方で、人をおもてなしすることへの感度が徐々に高くなってきました。例えば、居酒屋やバーでお酒をいただく時に、瓶のラベルを向けてくれるのは、茶道が残したおもてなしの1つなのだと感謝するようになるなど、日常生活に見える茶道の片鱗を感じることができるようになったことは、この教室を通じて学べる財産かもしれません。


レッスン風景1

 4月15日、いよいよ裏千家「初心者のための茶道教室」が始まりました。元々アートに興味があり、西洋美術、日本美術、現代アートを問わず美術館に足を運んで楽しんできたのですが、日本文化の中で総合芸術と呼ばれる茶道は、私にとっては未知の領域でした。「掛け軸や焼き物を美術品として鑑賞できても、茶の湯は体験しなければわからない」そう思い、思い切ってホームページをクリックしてみたのがきっかけでした。
 きっと細かなしきたりに、厳しい指導なのだろうと緊張しながら向かい、所在なくしていたところ、「膝が痛ければ崩しても良いし、楽しんで学んでくださいね」と講師の五十嵐先生。その場の空気が軽くなり、茶の湯は「おもてなし」だったのだと思い出しました。

 この日の前半の内容は、襖の開け方、立ち座り、お辞儀の仕方など、一連の立ち振る舞いについて。一挙手一投足すべてにルールがあり、何やら相当難しいぞと思う間に、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
 後半は「帛紗」の使い方の練習。この何の変哲もない正方形の布1枚を、折り畳みを工夫しながら茶道具を清めるようで、とても日本人らしいと思う一方で、これもまた先生方と同じとをしているはずなのに綺麗に畳めません。

 その合間に初めてのお茶とお菓子。お菓子は甘くお茶は苦いのだろうと、安易に考えていた予想とは違い、甘さ控えめで食べやすいお菓子と、甘くとろみのあるお茶。先生方同様優しいお味でした。
 深く追及すると、お茶の選び方やお湯を沸かす炭の選択まで、奥は深いようです。「人として自然で合理的な動作になるようにルールが決まっていますので、身に付いたら茶道以外にも、食事の時の茶碗の持ち上げ方など色々な所作が綺麗になりますよ。」と土井幹事長からのお言葉。一つ一つのルールや動きには意味があり、それが積み重なると所作として美しく洗練される。しかし理解はできても、頭で考えるように体が付いていかないのが初心者。体に染みつくまでは日頃の意識や練習など時間が必要そうです。

 「茶道」というものがおぼろげに見えたものの、人をもてなすにも、そのおもてなしを享受するにも、長い時間をかけた深い理解と実践が必要となるのだと感じ、思ったより甘くて思ったより甘くない1日目が終わりました。


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