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第78号(平成30年1月15日配信)

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『謹賀新年』 伊住禮次朗
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(写真:今日庵初釜式にて)

  新年明けましておめでとうございます。伊住禮次朗です。
  年末年始の諸行事から京都における宗家初釜式まで、滞りなく終えることができました。いつもと違ったのは、初釜初日の1月7日から茶道資料館で開催しております「茶の湯釜とその周辺─裏千家歴代の好み物を中心に」という展覧会を主として担当していたことでしょうか。様々なことどもが一気に動き出した慌ただしい1月前半でした。
  そういえば、昨年には博士論文も何とか提出終了! 今はきたる口頭試問に向けて、その準備を鋭意進めているところです。山あり谷ありでしたが、大学院生活はあっという間でした。求めれば目一杯学ぶことのできる学校という環境の有り難さ、身にしみて感じます。これだけ振り返っておいてダメだったら噴飯ものですが、博士号取得は決して目的ではありません。これまでに学び得たことを、茶の道に還元できるよう精進して参る所存です。皆様には、本年も相変わりませず宜しくお願い申し上げます。

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茶人の逸話:草間直方
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  草間直方(くさまなおかた)は大坂の代表的な町人鴻池家の一族でした。京都の商人の子として生まれ、鴻池家に奉公し、その仕事ぶりから一族の草間家の婿養子に迎えられ、後に別に家を立て、両替商となり財を蓄えます。隠居して「和楽(わらく)」と名乗ってから、さまざまな著作に専念しました。金・銀・銅銭の通用の歴史を記した『三貨図彙』(さんかずい)42巻や茶道具図集『茶器名物図彙』(ちゃきめいぶつずい)95巻などがそれにあたります。その一方では国文と国史の一大叢書『群書類従』(ぐんしょるいじゅう)を編纂した塙保己一(はなわほきいち)検校に、同叢書の編纂や刊行のための資金援助を行っていました。今でいう「企業メセナ」でしょうか。
  『茶器名物図彙』は鴻池一族の収集した茶器類を一部彩色し、図入りで書きあらわしたものです。ほぼ同時期に松平不昧が出雲18万石の権威をもって『古今名物類聚』(ここんめいぶつるいじゅう)18巻を編纂したのと好対照で、鴻池の財力が背景に有ったとはいえ、一介の町人が95巻に及ぶ著作、しかも茶人系図や茶道具の値段、茶室図なども入るもので、茶の湯を総合的に把握しようとしたものでした。


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