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第54号(平成28年1月15日配信)

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『丙申』 伊住公一朗
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(写真:香合 不思猿(おもわざる) 善五郎造)

こんにちは!
丙申歳、2016年がスタートいたしました。今年も一年、宜しくお願いいたします。
京都は例年に比べれば随分と暖かい正月でした。
京都での初釜式も無事に終わり、明日からは東京初釜式がスタートいたします。
本年は宗家にとりましても、坐忘斎家元が還暦を迎えられ、また当たり年ということで誠にめでたい新春となりました。
歴代では13代圓能斎宗匠が申歳という事で、席中も話が盛り上がり、和やかな空気に包まれております。
猿は大変に賢い生き物です。
日光猿軍団ではないですが、覚えもいいですし、しなやかに軽やかに、そしてしたたかに。
猿のように立ち回れる一年にしたいものです。

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茶人の逸話:安楽庵策伝
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  落語の元祖といわれる安楽庵策伝(あんらくあんさくでん)は、美濃国(岐阜県)出身の浄土宗の僧侶で、京都の新京極にある誓願寺の第55代法主を務めました。茶の湯は古田織部に学び、小堀遠州・近衛信尋(のぶひろ)などと交流をもちました。笑い話が得意で説教にも取り入れるほどでしたが、それらをまとめたものが、『醒睡笑 (せいすいしょう) 』という笑い話集です。本書は、後に落語の「ネタ本」として重宝されました。
  この本に載っている古田織部の茶会でのこと。正客が濃茶を一服口にし、「今日のお茶を作った茶師は誰ですか」と織部に聞いたところ、宇治の上林春松(かんばやし しゅんしょう)との答え。すると正客は「今日のお茶は特別おいしい、春宵(春松)一ぷくあたい千金だ」と誉めあげました。これは、中国・北宋の詩人蘇軾(そしょく)の「春宵一刻値千金」(しゅんしょういっこく あたいせんきん)=(春の夜はすばらしく、何と価値のあることか)という詩をもじったものです。
  ところで、春松の子孫のところにはこの詩によく似た「春せう(しょう)は値千金の御茶師哉」と書かれた沢庵和尚の短冊が残されています。ひょっとすると、正客は和尚だったのでしょうか。


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