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節目の年

千 宗室

  早や師走を迎えました。
  裏千家では又玄斎一燈宗室居士の二百五十回忌、今日庵全域の茶室修復工事終了など大きな出来事が重なった一年の中で、特に十月の丹心斎たんしんさい若宗匠の格式披露行事は私にとりましても人生の大きな節目となりました。
  披露茶会では各席主の方には大変お世話になり有難うございました。中でも老分席では老分方全員が十徳姿でお点前、お運びをしてくださいました。これは老分席始まって以来のことと感激一入でした。
  その披露行事の準備をしていた際のことです。当日の着物について過去の記録を調べていたところ、ふと倅が黒紋付を持っていないことに気が付きました。もっとも黒紋付を着て十徳を着用できるのは家元だけですから、これは当然のことです。しかしながら私に万一のことがあった場合、若宗匠が家元を継承するということで黒を着ることになります。黒紋付を作ってやらなければいけないな、ちょうど白生地をいただいているからこれを黒に染めようか―とその白生地を手にした時、それまで意識していなかったプレッシャーを初めて感じました。
  それは、ああ、後を継ぐ者が決まるのだという安堵の一方で、私に万一のことなどあってはなりませんから、今まで以上に健康に留意して頑張らなければという責任感でしょうか。若宗匠は次男であり、長男の私には分からないいろいろな悩みや覚悟の持ち方があったことでしょう。そのことを家元として、また父として汲んでいく勉強を、私自身もこれからしていければと存じている次第です。
  今年は新型コロナウイルスの感染拡大という思いがけない事態により、当たり前だと思っていた日常が一変した年になりました。思えば戦国時代に発展した茶の湯は近代になって明治維新でダメージを受け、大正デモクラシー、戦争、バブル崩壊、リーマンショックなど、様々なことがあった中で常に試行錯誤しながら困難を乗り越えてきました。それは誰かが手本を示したからではありません。一碗の茶を手にする人たちが皆、自分の心で感じたことを前向きに進めてきたからです。現状を嘆いてコロナの終息を願うばかりではなく、今の状態の中でできる茶の湯を引き続き探して参りたいと存じます。
  皆さま方が心安らかに新年を迎えられますよう祈念いたします。

淡交タイムス 12月号 巻頭言より