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自然のうつろい

千 宗室

  桜の便りが各地から聞かれる季節となりました。宗家周辺では兜門前の染井吉野が八分咲き程になった頃、茶道会館入口にある八重桜が花を開き始めます。昨年、ちょうどその時期に八重桜の幹で細かく動いているものがいることに気づきました。何かと思って見ていると街中では珍しいコゲラが嘴で幹をつついています。今日庵の兜門内では、抛筌斎の臥龍の松によくイカルが来ていたり、竹藪でニホンイタチが立ち止まってこちらを見ていることもあります。そんなふうに鳥や獣が出入りしてくれる環境がまだこの敷地のなかにあることを嬉しく存じております。
  「こうである」という自然の姿はありません。自然は人間の思惑とは関係なく、その場ごとに姿を変えていきます。それに一喜一憂することが私達の感性を豊かにしてくれるはず。季節の取り合わせを考えるにしても本を参考にするのではなく、目の前に咲いている花や横切っていく風に意識を向け、喜びだけでなく少し残念だったと思うようなことも加えていくことで本当に今この場でしか味わえない≠ニいう貴重な一会になります。
  例えばまだ釣釜の余韻が残る四月一日と、初風炉間近の三十日とでは透木の趣きも異なります。日によって変わっていく風情を皆さまと共に楽しんでいければと存じます。

淡交タイムス 4月号 巻頭言より