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物事と向き合う姿勢

千 宗室

  随分前のことですが、あるお寺で数日間集中講義のような形で老師が提唱されている時に元プロ野球選手・監督の故 星野仙一さんが来られていたことがあったそうです。提唱は難しい逸話を引用されたりするため長く通っている人でも分かりづらいものですが、星野さんはその時初めてだったそうで、話が終わった後に老師が感想を尋ねられました。すると星野さんは「さっぱり分かりませんでした。けれども、全部私に対するお教えをいただいているんだと思いました」と答えられたとのこと。老師はその言葉を星野さんが物事としっかり向き合おうとする姿勢を持っている心の表れだと捉え、大変感心されたという話です。
  分からない話は聞かない、興味のないことには目を向けないという人が多い世の中ですが、分からないことを一所懸命聞く姿勢というのは非常に大切です。
  学校茶道で一度に大勢の子供達を指導されている方もいらっしゃるでしょう。私も学生に教えることがありますが、その際に話を聞いている学生達、なかには寝むそうにしている人がいたとしても一人ひとりの顔を必ず見るようにしています。その場にいる全員に伝えようという指導者の想いはなかなか通じないかもしれません。しかし、それでも子供達に「先生が私のことを見てくれている。気にかけてくれているんだ」という気持ちが生まれてくることが必要です。
  十人いて通じるのが一人だけだったとしても、次はもう一人にも通じるようになるかもしれない。たとえ目線が絡まなくとも自分が相手に目を向けるようにすると、心もそちらに向いていきます。指導する立場の方はもちろん、教えを受ける立場の方もそのことを意識しつつ日々の茶の湯に向き合っていただきたいと存じます。

淡交タイムス 3月号 巻頭言より