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心の引き出し

千 宗室

  以前、ある行事で行った「一問一答」で人に教える際のポイントを教えてほしいと言われたことがありました。
  同じ薄茶の運び点前をしていても、分かりやすく言えば「できる人」と「できない人」がいます。私自身、以前は講習会などでご指導する際に全員を同じ一定レベルにまで引き上げてさしあげたい≠ニ、できる・できないに関わらず誰に対してもずっと同じ教え方をしていました。しかし結局差が出てしまう。どうしてかなと思っていましたが、相手を目指す高さに引き上げる前に、それぞれが立っている位置がどう違うかを見てあげなければいけなかった。そのことに気が付きました。茶歴の異なる相手に対して同じ努力を求めるのではなく、まずは自分が相手のレベルに思いを寄せて指導する(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)必要があるということです。
  そのためには、まず自身のレベルがどれくらいかを知らなければなりません。例えば帛紗を捌く時、自分がなぜそれをするのか分からない状態で目の前の人に理解しろと言っても相手は理解できません。相手に「これを教えたい」と思ったらまず自分が下準備し、理解していることが大切です。
  皆さまは、これまでたくさんのことを経験し、学んでこられたことと存じます。ところがそれを上手に整理整頓し、分類することをあまり心がけてこなかった方もいらっしゃるのではないでしょうか。心にたくさんの引き出しがあることは分かっていても、どの引き出しに何を入れたのかが分からないということもあるでしょう。その中身を見直して整えることは、どれだけのことを知っているか(・・・・・・・・・・・・・・)を確認するより、どれほど知らないか(・・・・・・・・・)を確認するということです。一年の締めくくりに、今一度心の引き出しの整理整頓を心掛けていただきたいと存じます。

淡交タイムス 12月号 巻頭言より