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始めの準備、後始末

千 宗室

  茶の湯の世界では「始めの準備、後始末」を大切にします。点前とは人目につく席中の所作だけではなく、水屋での準備から片付けまでができてはじめて成り立つもの。「後始末」とは行儀良くしなさいという教えではなく、次の方がしやすいように場を整える心配りです。勿論これは茶道に限らず毎日の暮らしや人生そのものにも通じること。毎朝、片付いた部屋を開けて空気を入れ替え、必要なものを広げ、一日の終わりには全てを元通りに戻す…その繰り返し。「次に使う人」は自分以外の方かもしれませんし、自分自身の場合もあります。後始末をきちんとすることは、次にまた気持ち良くスタートを切れるということです。
  毎年十一月の宗旦忌の後、到来した茶壺の口切を家族内々でさせていただきます。封を切って詰茶を少し出し、初昔、祖母昔、そして私の好みました濃茶の三種類から選び、石臼で挽きます。そしてまず利休様や歴代宗匠にお供えし、その後私たちも相伴します。ある年、子供たち甥たちと共に石臼を回した時、いくら挽いてもなかなか抹茶が出てこないことがありました。最初に臼の重ねをしっかり合わせたつもりでしたが、準備段階や前年の片付けに油断があったのでしょう。もう一度少々調整したらたちどころに出てきました。人様には「始めの準備、後始末」と言っておきながら、例年通り出て当たり前という気持ちで石臼に向かってしまったことが、その年非常に良い勉強をさせていただいたように思いました。
  雪は豊かさの兆しという験担ぎか、圓能斎宗匠の記録に初雪を待って口切をしたとあります。今のように年中抹茶が流通している時代ではありません。 前年の残りが少ないことを気にしながら風花を待つ姿が目に浮かぶ。私たちも季節との付き合い方に学び折々の茶の湯に向き合いたいと存じます。

淡交タイムス 11月号 巻頭言より