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一里四方のご馳走

千 宗室

  明けましておめでとうございます。皆さま方には恙なく新玉の年をお迎えのことと存じます。
  本年も七日より今日庵初釜式を執り行います。花入には、土地の時節柄に適ったものとして曙椿と鶯神楽。これは先人方が旧暦に馴染んでいた頃からの伝統で、曙椿は「春はあけぼの」の言葉や「元旦」を象徴する花として新春を寿ぐ意味で取り上げています。また厳寒の中ほどよく花芽をつけているのが鶯神楽ですので、この組み合わせを佳しとし縁起物として使い続けてこられたわけです。
  一時期、日本中どこの席でも正月にはこの組み合わせでなくてはならないという風潮が蔓延しましたが、基本となるのはそれぞれの土地に根を張り枝葉を伸ばしている植物を、日頃から自分の五感で捉え、迎える客を思いながら自然に適った姿で取り入れる心です。
  昨秋、ある会合で富山を訪れた際、地元の世話役が早朝から船を出して自分たちで釣ってきてくれた旬の太刀魚をいただく機会がありました。思い出したのは私が幼い頃、先代の辻留主人が言っていた「料理とは一里四方のもので賄います。それがご馳走です」との言葉。これまで「手間をかけることがもてなし」と私も言っていましたが、「手間をかけることを厭わない(・・・・・)心」こそが大切です。
  時代に逆らうわけではありません。現代に適した便利さと、手間を厭わない心とを兼ね合わせながら、今年も自分たちの足下を見つめ直し、身近にある佳きものを次世代に紹介していければと存じます。

淡交タイムス 1月号 巻頭言より