| 忙しさの中に |
| 千 宗室 |
| 今年の今日庵初釜式では一昨年の寅歳に続き、元伯宗旦居士筆「龍虎」を掛けさせていただきました。龍虎のように競い合う心は誰もが持つものですが、過度に他人と自分の優劣を争うのではなく、昨日の自分と今日の自分を比べて切磋琢磨するような一年でありたいと願っています。 また、初削の茶杓は「龍吐明珠」といたしました。辰は十二支の中で唯一空想上の生き物で、吉祥であるとともに体内に宝物を持つとされています。その龍が宝物を吐き出すには大変な苦労が伴います。修道においても、産みの苦しみを経てこそ、かけがえのないものが手に入るのではないでしょうか。 昨今、私たちは多忙な日々を過ごしており、ものごとに真摯に取り組めなかった際には「忙しいから仕方がない」といった言い訳をしがちです。思い出されるのは若宗匠の頃、私も母に同じような愚痴をこぼしたことです。母は優しくひと言、「時間は自分で作るものですよ」。確かに時間は誰かに与えてもらうものではありません。先々を考えて予定を組み、時間をやり繰りするのは自分の責任です。良い日もそうでない日も、自分にとっての一日一日を大切にし、忙しさの中にも楽しさを見出す工夫をすることで、確実にその日を過ごしたという満足感が生まれるのではないでしょうか。 今日庵東京初釜式には東北の同門社中の皆さまにもお越しいただきました。そのお姿を拝見し安堵するとともに、いまだに不自由な生活を余儀なくされ、茶の湯の稽古もままならない方々がいらっしゃることを思わずにはいられません。安心して一碗を楽しめる日が皆様に一日も早く訪れますことを心より祈念いたします。 |
| 淡交タイムス 2月号 巻頭言より |